EUの科学AI戦略「Raise」が目指す、欧州AIの真の自立とは？

EUの科学AI戦略「Raise」が目指す、欧州AIの真の自立とは？

いやはや、EUがまた大きな一歩を踏み出しましたね。「Raise」という科学AI戦略を採択し、「AIのためのCERN」を創設する、と。正直なところ、最初にこのニュースを聞いた時、私は少しばかり懐疑的でした。あなたも感じているかもしれませんが、欧州が「技術的自立」を掲げるたびに、その壮大なビジョンと現実のギャップに、私たちは何度か直面してきましたからね。でも、今回は少し違うかもしれません。あなたはどう思いますか？

私がこの業界に足を踏み入れて20年、シリコンバレーのガレージから生まれたスタートアップが世界を席巻するのを目の当たりにし、日本の大企業がAI導入に苦戦する姿も見てきました。その中で、欧州が常に意識してきたのは、米国や中国の巨大テック企業への依存をどう減らし、独自の道を切り開くか、という点です。今回の「Raise」は、単なる研究機関の設立に留まらず、その根底には「卓越性と信頼」という、欧州らしい哲学が深く息づいているように感じます。彼らは、AIが人間中心で信頼できるものであるべきだ、という揺るぎない信念を持っている。これは、技術の本質を見抜く上で非常に重要な視点だと、私は個人的に評価しています。

さて、その核心に迫りましょう。「Raise」、正式名称「Resource for AI Science in Europe」は、まさに欧州委員会が提唱する「AIのためのCERN」を実現するための仮想研究所です。科学者が最先端のAIツールを開発し、研究を加速させるための基盤となるわけです。そして、この壮大な計画を支えるのが、桁外れの投資です。EUは「デジタルディケード」中に年間200億ユーロのAI投資を目標に掲げ、「Horizon Europe」や「Digital Europe」プログラムを通じて年間10億ユーロをAIに投じると言います。さらに、「Recovery and Resilience Facility」からも1,340億ユーロがデジタル化のために利用可能で、これもAI戦略を後押しするでしょう。

しかし、本当に注目すべきは「InvestAI」イニシアチブです。総額2,000億ユーロ（約32兆2000億円）という途方もない金額をAIに動員する計画で、そのうち500億ユーロはEUが出資し、残りの1,500億ユーロは「European AI Champions」イニシアチブから提供される予定だというから驚きです。そして、この「InvestAI」の目玉とも言えるのが、200億ユーロを投じて設立される4つの「AIギガファクトリー」です。それぞれ約10万個の最先端AIチップが搭載され、現在のAIファクトリーの約4倍の規模になるというから、これは本気度が違います。単なる研究だけでなく、大規模な計算資源を自前で確保しようという強い意志を感じますね。

技術面では、2025年4月に発表された「AIコンチネント行動計画」が信頼できるAI技術の開発に焦点を当て、そして2025年10月5日に発表された「Apply AI」戦略が、外国のAIプロバイダーへの依存を減らし、欧州製のAIプラットフォームを育成することを明確に打ち出しています。この「Apply AI」戦略がターゲットとする主要分野は多岐にわたります。ヘルスケアでは、患者ケアの診断強化や病院管理のためのAIソリューション。防衛では、戦場での運用を改善するための欧州製AI駆動型指揮統制（C2）システム。製造業では、AIを活用した自動化と監視機能による産業生産性の向上。宇宙およびフロンティア技術では、宇宙防衛アプリケーション向けの自律型AIモデルの開発。そして公共部門では、公共機関における欧州製AIソリューションの採用促進です。これらは、単に技術を開発するだけでなく、具体的な社会実装まで見据えている証拠でしょう。「GenAI4EU」イニシアチブも、欧州の戦略的セクターに生成AIを統合するための資金提供機会を創出していますし、「AIデータラボ」の設置計画も、GDPR（一般データ保護規則）を遵守しつつ、高品質なデータセットを集約しようという、欧州ならではのアプローチが見て取れます。

では、私たち投資家や技術者は、この動きをどう捉えるべきでしょうか？まず投資家としては、欧州のディープテック企業、特にヘルスケア、防衛、製造業、宇宙といった「Apply AI」戦略の重点分野に注目すべきでしょう。EUは「AIイノベーションパッケージ」でスタートアップや中小企業を支援し、「Trusted Investors Network」には900億ユーロ以上の資産を運用する71もの投資家が参加しているというから、資金の流れは確実に生まれています。ただし、欧州のスタートアップは、米国のような爆発的な成長を遂げるまでに時間がかかる傾向があるのも事実。長期的な視点と、欧州特有の規制環境への理解が不可欠です。

技術者やスタートアップの皆さんにとっては、これは大きなチャンスです。特に「信頼できるAI」という欧州の価値観に共鳴し、GDPRのような厳格なプライバシー保護規制をクリアできるソリューションを提供できるなら、大きなアドバンテージになるでしょう。欧州は、単に技術の速さだけでなく、その「質」と「倫理」を重視する市場です。しかし、同時に、米国や中国の巨大なエコシステムとどう戦っていくか、優秀なAI人材をどう確保し、育成していくかという課題も山積しています。特にAIチップの供給や、大規模モデル開発における計算資源の確保は、一筋縄ではいかないでしょう。

正直なところ、私はまだ完全に楽観視しているわけではありません。過去の経験から、壮大な計画が必ずしも期待通りの成果を生まないことも知っています。しかし、今回のEUの戦略は、これまでのどの試みよりも具体的で、かつ大規模な投資を伴っています。特に「AIギガファクトリー」のようなインフラ投資は、欧州が本気で技術的自立を目指していることの表れだと感じます。果たして、欧州は「AIのためのCERN」を本当に実現し、米国や中国に並ぶ、あるいはそれ以上のAIエコシステムを構築できるのでしょうか？そして、その中で、私たちはどのような役割を果たすことができるのか、あなたも一緒に考えてみませんか？