華為のAIチップ50万個連結構想、その真意とAI業界に何をもたらすのか?
華為のAIチップ50万個連結構想、その真意とAI業界に何をもたらすのか?
正直なところ、華為が「Atlas 950 SuperCluster」で50万個ものAIチップを連結する構想を打ち出したと聞いた時、私の最初の反応は「また大きく出たな」というものでした。あなたもそう感じたかもしれませんね。AI業界を20年近く見てきた私にとって、こういう壮大な発表は珍しくありません。しかし、今回は少しばかり、いや、かなり本気度が違うように見えます。これは単なる数字の羅列ではなく、Nvidiaが築き上げてきた牙城に、真正面から挑む中国の強い意志の表れだと私は見ています。
ご存知の通り、AIチップの世界はNvidiaの一強時代が長く続いてきました。その性能、エコシステム、そして開発者コミュニティの厚さは圧倒的です。しかし、米国からの制裁を受け、自国の半導体サプライチェーンの確立が喫緊の課題となった中国にとって、華為のこの動きは国家戦略そのもの。過去には、特定の技術で先行する企業を追いかけるのは至難の業だと何度も痛感させられてきましたが、今回はその「追いかける」というよりは、「独自の道を切り拓く」という強い決意を感じます。Semiconductor Manufacturing International Corp. (SMIC) との協力で7ナノメートル製造プロセスの歩留まり向上に取り組んでいるという話も、その本気度を裏付けています。
では、この50万個連結という構想、具体的に何がすごいのでしょうか? 華為が開発する「Ascend AIチップ」シリーズ、例えばAscend 910C、Ascend 950、Ascend 960、Ascend 970といった個々のチップは、現時点ではNvidiaのトップエンド製品に単体性能で及ばないかもしれません。これは私自身も最初は懐疑的だった点です。しかし、彼らの戦略は「量」で「質」を補う、あるいは「量」が新たな「質」を生み出すという発想です。これらのAscendチップを「SuperPod」と呼ばれるシステムに統合し、さらに複数のSuperPodを連結して「SuperCluster」を形成する。Atlas 950 SuperClusterでは50万個以上、そして将来のAtlas 960 SuperClusterでは100万個以上のチップを使用する計画だというから驚きです。
この大規模連結を可能にするのが、華為が独自に開発した相互接続技術です。「Lingqu (UnifiedBus) Interconnection Protocol」や、その技術仕様を公開している「Yunqu 2.0」は、まさにその心臓部。さらにUBOEやRoCEといったネットワーキングプロトコルも活用し、チップ間の効率的な通信を実現しようとしています。高帯域幅メモリの自社開発や、推論スループットを向上させるためのHi-F4データ形式の導入も、この巨大なAIインフラを支える重要な技術要素です。
華為は、2026年第4四半期にAtlas 950 SuperPoDを、そして2027年第4四半期にはAtlas 960 SuperPoDをリリースする予定だと言います。Atlas 950 SuperNodeは2026年に展開され、各ユニットが8,192個のチップをサポートし、2027年の次世代Atlas 960 SuperNodeでは15,488個のチップを搭載する計画。このロードマップの具体性も、彼らが単なる夢物語を語っているわけではない証拠でしょう。
そして、この動きは単にデータセンター向けの話に留まりません。華為はAIイノベーション、特にスマートフォン向けに1億3,700万ドル(10億元)を投資する計画も明らかにしています。HarmonyOS NEXTのようなソフトウェア反復におけるAI機能の強化が目的だというから、彼らのAI戦略はハードウェアからソフトウェア、そしてエッジデバイスまで、非常に広範に及んでいることがわかります。ByteDanceやAlibabaといった中国国内の主要テクノロジー企業が、Nvidia製品の代替として華為のAIソリューションを採用し始めているという事実も、この構想が絵空事ではないことを示唆しています。
投資家や技術者の皆さんは、この華為の動きをどう捉えるべきでしょうか? まず、Nvidiaの牙城が揺らぐ可能性を真剣に考えるべきです。もちろん、すぐにNvidiaの優位性が崩れるわけではありませんが、中国市場における代替選択肢としての華為の存在感は確実に増していくでしょう。これは、AIチップ市場の競争構造に大きな変化をもたらす可能性があります。技術者にとっては、大規模分散AIシステムの設計や最適化に関する新たな知見が、華為のエコシステムから生まれてくるかもしれません。特に、多数の比較的低性能なチップを効率的に連携させる技術は、今後のAIインフラのコスト効率化や、特定の用途に特化したAI開発において重要なヒントを与えてくれるはずです。
個人的には、この構想がどこまで実用的な成果を上げられるか、まだ慎重に見極める必要があると感じています。しかし、中国が国家を挙げて半導体自給自足を目指し、華為がその先頭に立ってこれほど大規模な投資と技術開発を進めていることは、世界のAI業界にとって無視できない大きな波となるでしょう。この波は、私たちにどのような新しい景色を見せてくれるのでしょうか?