河南のAI産業、1600億元超えの野望。その真意はどこにあるのか?
河南のAI産業、1600億元超えの野望。その真意はどこにあるのか?
また地方政府が大きな数字を掲げてきたな、というのが正直な第一印象です。河南省が2027年までにAI産業規模を1,600億元(約3兆2,000億円)以上に拡大し、全国的に重要なAI産業拠点を目指すというニュース。あなたも「またか」と感じたかもしれませんね。20年間この業界を見てきて、こういう話は何度も耳にしてきましたから。シリコンバレーのスタートアップが鳴り物入りで登場し、あっという間に消えていくのを見てきたし、日本の大企業が鳴り物入りでAI部門を立ち上げ、数年後にはひっそり規模を縮小する姿も見てきました。だからこそ、この手の発表にはまず懐疑的な目で見てしまうんです。でもね、数字だけでは語れない深さがあるんですよ。
今回の河南省の発表、ただの目標設定で終わらない「本気度」が垣間見えるんです。「河南省の人工知能(AI)を活用した新型工業化を加速させる行動計画(2025~2027年)」という具体的な計画が発表されている。これ、単なるスローガンじゃない。彼らはすでに2024年末時点で110社のAI関連重点企業を抱え、産業規模は700億元に達しているというから、ゼロからのスタートではないんです。これは、過去に私が目にしてきた、絵に描いた餅のような計画とは一線を画しているように感じます。
彼らが目指しているのは、AIを既存産業に深く根付かせること。新材料、新エネルギー車、電子・情報、先進設備、現代医薬、現代食品、現代軽紡といった河南省の基幹産業にAIを導入し、デジタル化を推進する。特に電子・情報産業では、AIアルゴリズムによる生産・検査工程の効率化や、集積回路の仮想製造まで視野に入れているというから驚きです。これは、単にAI企業を誘致するだけでなく、地元の製造業をAIで「底上げ」しようという強い意志を感じますね。研究開発から生産、経営管理、倉庫・物流、販売、安全管理まで、企業活動のあらゆる側面にAIを導入し、競争力を強化しようとしている。製造分野で大規模言語モデル(LLM)と産業用ソフトウェアを融合させ、「AI+」による生産計画や欠陥検査を進めるというのは、まさに私が長年提唱してきた「AIの民主化」の1つの形かもしれません。
そして、彼らはスマート機器・製品の開発にも力を入れています。AIスマートフォン、パーソナルコンピューター、大規模言語モデル一体型マシンといった完成品だけでなく、スマートセンサー、集積回路、AI視聴覚端末、医療・介護端末、車載端末、工業用AI端末といったハイエンド部品の開発も進めている。これは、AIを単なるソフトウェアとしてだけでなく、ハードウェアと一体になった「ソリューション」として捉えている証拠です。かつて、日本の家電メーカーがスマートホームの可能性を模索していた頃を思い出します。あの時はまだ技術が追いついていなかったけれど、今はLLMとの融合で、全く新しい製品形態が生まれる可能性を秘めている。あなたも、AIが組み込まれた新しいデバイスにワクワクする気持ち、ありますよね?
さらに、AI産業エコシステムの最適化にも余念がありません。著名企業や上場企業を誘致し、グローバル競争力を持つリーディング企業を育成する方針です。これは、シリコンバレーがそうであったように、競争と協調が生まれる土壌を作ろうとしているのでしょう。そして、資金面でも手厚い支援策が用意されています。政府投資基金が牽引役となり、社会資本の参加を促す。製造業のデジタル化転換のための特別融資や、AI産業基金として年間約1億元の省級財政資金を新規投入する計画もある。条件を満たすAI企業の株式上場を支援するというのも、企業にとっては大きな魅力でしょう。
個人的に注目しているのは「算力(計算能力)」の供給です。「算力券」政策を実施し、年間総額5,000万元を超えない算力券を発行するとのこと。これにより、企業や研究機関、大学が算力資源使用料の20%の補助を受けられ、各単位は年間最大100万元の算力券を利用できる。これは、AI開発のボトルネックとなりがちな計算資源へのアクセスを容易にする画期的な取り組みです。国家スーパーコンピューティングインターネットのコアノードや河南空港スマートコンピューティングセンターの建設も加速し、全国一体型算力ネットワークへの深い統合を図るというから、インフラ整備にも本気です。
大規模言語モデルの開発と応用も彼らの戦略の柱です。登録されたモデル企業や応用効果の高い業界大規模モデルに対して、一度にまたは最大100万元の資金援助を行う。すでに「中原智造」工業ビジョン大規模言語モデル、「豫鼎安瀾」工業安全生産大規模言語モデル、「天信鉱山大規模言語モデル」、「華鼎雪豹大規模言語モデル」といった、工業検査、安全生産、鉱山作業、冷蔵物流などの分野をカバーする4つの産業用LLMを発表しているのは、非常に実践的です。これは、汎用LLMだけでなく、特定の産業に特化したLLMが今後の競争優位性を生むという私の見立てとも一致します。
そして、最も興味深いのが「エンボディドAI(Embodied AI)」、つまり人型ロボット産業への注力です。2024年8月30日には「河南省エンボディドAI産業発展行動計画(2024−27年)」を発表し、中豫エンボディドAI実験室からは今年約1,000台の「河南製」エンボディドAIロボットが導入される予定だという。製造、農業、文化クリエイティブなど多分野での活用が期待されている。正直なところ、人型ロボットはまだ実用化には課題が多い分野だと見ています。しかし、彼らがこの分野にこれほど積極的に投資しているのは、将来の産業構造を見据えているからでしょう。かつて、私が日本のロボットベンチャーの苦闘を間近で見てきた経験からすると、この規模での政府主導の取り組みは、成功すれば大きなインパクトを生む可能性があります。
もちろん、課題は山積しています。優秀なAI人材の確保、技術の急速な進化への対応、そして何よりも、これら壮大な計画を絵空事で終わらせない実行力。これらが問われることになるでしょう。しかし、河南省がAI技術と製造業の深い融合を主軸とし、製造業の高度化、スマート化、グリーン化への転換を推進し、デジタル化・スマート化の実現を支えようとしている姿勢は評価に値します。
あなたも、この河南省の動きから、これからのAI産業の「本質」をどう読み解きますか?