QualcommとMediaTekの可能性とは?
QualcommとMediaTek、クラウドAI ASICへの本気:その真意はどこにあるのか?
正直なところ、最初にこのニュースを聞いた時、あなたも「またか」と感じたかもしれませんね。長年スマートフォン市場でしのぎを削ってきたQualcommとMediaTekが、今度はクラウドAI ASICという、これまでNVIDIAが圧倒的な存在感を示してきた領域に本格参入するという話です。私自身、20年間このAI業界をウォッチしてきましたが、こうした大手企業の戦略転換にはいつも驚かされます。しかし、その裏には必ず、彼らが「これだ!」と確信した大きな潮流があるものです。
考えてみれば、スマートフォンの成長が鈍化し、市場が成熟期に入った今、次の大きな波がAIであることは明白です。特に、クラウドAI、つまりデータセンターで動くAIの需要は爆発的に増えています。かつてはCPUが主役、その後GPUがAIの寵児となりましたが、今は特定のAIワークロードに特化したASIC(Application-Specific Integrated Circuit)が注目されています。これは、より高い効率と低コストを実現するための必然的な進化と言えるでしょう。私がシリコンバレーのスタートアップから日本の大企業まで、数百社のAI導入を間近で見てきた経験から言っても、このASICへのシフトは、単なるトレンドではなく、AIインフラの根本的な変革を意味しています。
では、QualcommとMediaTek、この二大巨頭は具体的に何を仕掛けようとしているのでしょうか?
まずQualcommから見ていきましょう。彼らの戦略は「深い統合と独自IPの活用」にあります。2021年のNuvia買収は、その象徴的な一歩でしたね。NuviaのOryon CPUを自社のIPポートフォリオの核に据え、さらに2025年にはAlphawaveを買収してSerDes(シリアライザー/デシリアライザー)や高速インターコネクトの技術を強化しました。これにより、Qualcommは単なるチップベンダーではなく、より包括的なテクノロジースタックを提供できるようになったわけです。製造面でも、TSMCとSamsungという2つの大手ファウンドリを使い分けることで、生産の柔軟性を確保しているのはさすがです。
製品面では、すでにエッジ推論サーバー向けに「Cloud AI 100」や「Ultra AI accelerator cards」を展開しています。そして、大規模言語モデル(LLM)の学習と推論に特化したチップの開発も進めていると聞きます。特に注目すべきは、2025年9月に発表された18コアプロセッサで、80 TOPS(Tera Operations Per Second)という高いAI性能を誇り、AR/VRや自動運転システムといった次世代のオンデバイスAIのニーズを狙っています。Qualcommは、AI学習市場がNVIDIAの牙城であることを認識しつつ、より広範で収益性の高いAI推論市場、特にエッジコンピューティングでの「遍在的な存在感」を目指しているようです。Qualcomm VenturesもAI、5G、自動車、IoT、XR/Metaverseといった分野に積極的に投資しており、Computex 2025で発表されたデータセンター市場への戦略的拡大は、彼らの本気度を示しています。
次にMediaTekです。彼らの強みは「スピードと戦略的パートナーシップ」にあります。長年ArmのリファレンスデザインとTSMCの先進ノードを活用し、スマートフォンやChromebookで培ってきた量産ノウハウは計り知れません。技術面では、224G SerDes技術を実証し、自社内のインターコネクト技術の高さを見せつけています。さらに、2.5D、3D、3.5Dといった先進パッケージング技術にも大規模な投資を行い、AIやクラウドアプリケーションが求める性能、密度、スケーラビリティに対応しようとしています。彼らがTSMCの2nmプロセスを活用し、2027年に量産開始予定のAI推論向け2nm ASIC「Arke」は、消費電力の大幅削減を実現すると言われています。
パートナーシップ戦略も非常に巧妙です。NVIDIAの「NVLink Fusion consortium」や「DGX Spark GB10 project」への参加は、高性能コンピューティング市場への明確な参入表明です。さらに、GoogleとのTPU(Tensor Processing Unit)開発における提携は、彼らのクラウドAI ASICへの推進力を加速させています。特に、次期TPUの開発でGoogleと組んでいるのは、MediaTekがTSMCとの強固な関係と競争力のある価格設定を持っているからだという話も耳にします。MediaTekは、モバイルSoCからフルスタックAIソリューションへと戦略的に軸足を移し、2028年までに400億ドル規模のAI ASIC市場で10%のシェア、2026年までにAI ASIC販売で年間10億ドルの収益を目指すという野心的な目標を掲げています。HFI Innovationへの投資や、Metaからの2nm ASIC受注も、彼らのこの分野へのコミットメントの証でしょう。
あなたも感じているかもしれませんが、正直なところ、個人的にはこの動きは非常に理にかなっていると思います。グローバルなAI ASICチップ市場は2024年から2030年にかけて年平均成長率32.4%で成長すると予測されており、特にハイエンドのクラウドASICは2025年から2029年にかけて年平均21%で成長し、GPUの7%を大きく上回ると言われています。これは、クラウドサービスプロバイダーが、性能とコストをより厳密にコントロールするために、自社開発のASICを加速させているという業界全体のトレンドを反映しています。
では、私たち投資家や技術者は、この状況をどう捉え、何をすべきでしょうか? まず、QualcommとMediaTekが単なるスマートフォンチップベンダーではないという認識を改める必要があります。彼らは、AI時代の新たなインフラを支える重要なプレイヤーになろうとしています。投資家としては、彼らのAI関連製品の具体的な採用事例や、データセンター市場でのプレゼンスの拡大に注目すべきでしょう。特に、QualcommのNuviaやAlphawaveといった買収が、どのように彼らのASIC戦略に貢献しているのか、そのシナジー効果を評価することが重要です。MediaTekのNVIDIAやGoogleとのパートナーシップも、彼らの技術力と市場への浸透度を測る上で見逃せません。
技術者としては、ASICの設計思想や、特定のAIワークロードに最適化されたアーキテクチャについて深く理解することが求められます。汎用GPUから特化型ASICへのシフトは、AIアプリケーション開発のあり方にも大きな影響を与えるはずです。例えば、QualcommのCloud AI 100やMediaTekのArkeのような製品が、どのようなAIモデルやフレームワークに最適化されているのか、その詳細を追うことは、今後の開発戦略を立てる上で不可欠です。
この二社の動きは、AIハードウェア市場の競争をさらに激化させるでしょう。NVIDIAの牙城が揺らぐのか、それとも新たな共存の形が生まれるのか。そして、このASICシフトが、最終的にAIの民主化を加速させるのか、それとも特定の企業による寡占を招くのか。まだ答えは出ていませんが、このエキサイティングな変化の波に、あなたはどう乗っていきますか?